2018.11.10
第8回 高校生対象建築デザインコンペ 結果講評
公開日2018/10/9
高校生対象建築デザインコンペ
課題 「タイム・トラベラーの建築」
[審査結果]
1等
「家の年輪」
藤田 大輝さん 静岡県立浜松工業高等学校2年
2等
「土の家」
中村 一さん 静岡県立浜松工業高等学校2年
3等
「猿払温泉旅館 神の湯 」
佐川 神さん 名寄産業高校3年
佳作
「時を刻む丸屋根」
前川 菜々実さん 北海道札幌工業高校建築科3年
「人々を救う空間から繋ぐ空間へ」
左口 野々花さん 静岡県立浜松工業高等学校2年
「シンボルツリー」
横山 優璃さん 静岡県立浜松工業高等学校2年
[審査講評]
自分で言うのは変ですが、この課題は、とても興味深い問題を含んでいます。今活躍中の建築家たちに課してみたいと思うほどです。長い時間について考えることの重要性は誰もが知っている。一方で、100年前と言うともう、歴史の問題だから私たちには直接関係がない、と思う人もいるかもしれません。しかし、建築に限ってみても、1915年にル・コルビュジェが「ドミノ・システム」を提案し、1920年にはミースが、鉄とガラスの超高層ビルのドローイングを描いていました。それらは今の都市の風景を決定したアイデアでした。
高校生にはとても太刀打ちできないかな、とも案じていたのですが、素晴らしい作品が集まりました。100年という時間を、想像力と構想力で読み解こうという意思を感じました。
1等の「家の年輪」(藤田大輝君)は、100年前に、あるシステムを残してくるという賢い案です。RCのコアの周りを、木造のグリッドが必要に応じて取り囲むというシステム。100年の年輪というからには、木造部がもっともっと大きくなった姿があっても面白かったでしょう。そしてそれがやがて、ほとんどなくなっていくという姿も。
2等の「土の家」(中村一君)は最初に土のボリュームが用意され、それが時間とともにくり抜かれて空間ができていく。土の表面は植物でおおわれていく、という案です。戦争や地震とともに、その表情をもっと繊細に変えていく様子も、想像できたでしょう。
3等の「神の湯」(佐川神君)は伝統的な木組の形が巨大化して建築そのものになっているという「奇想」です。奇想なのですが、僕にはこれが、1922年に行われた建築コンペ「シカゴ・トリビューン社屋」でアドルフ・ロースが提案した、古代ギリシャの柱状の高層ビルを連想させて面白かった。歴史は繋がっています。
佳作を3点選びました。「シンボルツリー」(横山優璃君)は、塔を取り囲むボリュームに、緑が多いのが魅力です。100年後には、「緑のシンボルツリー」になっているといいですね。「人々を救う空間から繋ぐ空間へ」(左口野々花君)は、かつて戦争があり、今は自然災害に見舞われる日本には、リアリティのある空間です。つくった時代には誰も日本が空襲されるなんて信じなかったでしょうから、一見防空壕からは遠い形にしてもよかった。「時を刻む丸屋根」(前川奈々実君)は、このガラスのドームのなかから、変わりゆく時代と風景を眺めていたらどうだろうと、想像が膨らみます。桜島の火山灰になかば埋もれながら見る空は、どんな感じだろう、とか。
皆さん、これからも、自分の想像力と構想力を信じて、これからの100年を、面白い時代にしてください。
(審査員:鈴木 隆之)
[審査員profile]
建築家、小説家。Visiting Professor、The University of Saint Joseph, MACAU。元京都精華大学教授。元SCI-Arc(アメリカ)客員教員。群像新人文学賞受賞(小説『ポートレイト・イン・ナンバー』1987年、現代企画室刊)。SDレビュー入選(建築案『小説家の家』2006年)。主な著書に『表現空間論~建築/小説/映画の可能性』(建築論、論創社)、『「建築」批判』(批評、彰国社)、『パーフェクト・ワールド』(小説、論創社)、『未来の地形』(小説、講談社)、『不可解な殺人の風景』(批評、風塵社)など。主な建築作品に『京都精華大学本館』『EXCES』『東京激安的住居』『緑町の家』『笹井邸』など。現在、小説『パーフェクト・ワールド』のストーリーをもとに、ハリウッド映画プロジェクトを進行中。映画中の空間デザインを担当。
1961年生まれ。京都大学建築学科卒。
応募要項は、こちら(pdfファイル)からご確認ください。
関連記事